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『女神さまからのおくりもの』
みほ ようこ


プロローグ

「あのかたが、丘の上で待っていますよ」
 清太は丘へ向かって、馬を走らせました。
「なにかご用でしょうか」
「清太は、こちらへきて、どのくらいになる?」
「五百年になります」
「そうか、そんなになるのか。月日のたつのは、早いものじゃのぅ。清太、ふくから、なにか聞いているかな」
「いいえ。でも、昨日ふくちゃんに会った時、さみしそうな顔をしていたので、どうしたのかなと心配していました」
「実は・・・ふくが、あちらの国へ行くことになった」
「ふくちゃんが・・・ですか。さみしくなりますね」
「ふくも、きよや清太と別れるのが、つらいようじゃ。三人は仲がいいから、無理もないがのぅ」
「ふくちゃんは、どちらへ」
「守屋山のふもとの村じゃ」
「その山は、たしか・・・信州にある山」
「そう、諏訪湖の近くにある山じゃ。清太、お願いがあるのだが」
「なんでしょうか」
「ふくといっしょに、あちらの国へ行ってもらえないだろうか」
「私がですか」
「無理かのぅ」
「妻も、いっしょでしょうか」
「いや、今回は別々じゃ。でも、きよも、あちらへ行く予定があるらしい。何年後になるか、わからないがのぅ」
「あちらで、きよに会えるでしょうか」
「それはわからぬ。会えるかもしれないし、会えないかもしれない。・・・というのは、あちらへ行く時、すべての記憶が消されてしまうからじゃ。だから、きよに会っても、妻だったということがわからない。でも、きよと清太は、ほんとうに仲のいい夫婦。きよに会えば、どこかで会ったことがあるような、なつかしい気はするだろう」
「両親になる人は?」
「清太に限らず、どの人も自分の魂と同じ人を選らび、こどもにしてもらうのじゃ」
「出発は、いつでしょうか」
「二十日後じゃ」
「えっ、二十日後?」
「そうじゃ。清太、急なことで悪いのぅ。どうしても、ふくといっしょに、あちらの国へ行ってほしいのじゃ。あちらへ行ったら、いろいろなことを経験しておいで。じゃあ、たのんだぞ」
 こうして、清太は、あわただしくあちらの国へ行くことになりました。

 十一カ月後。
 守屋山のふもとの村に、元気な男の子が生まれました。清太となづけられた男の子は、すくすく大きくなりました。

 清太が生まれて一カ月後。
 桜の花が満開になったある日。
 朝日長者の門前に、生後一カ月くらいの女の子と、梶の紋がついたお守りがおいてありました。
「神様が、わしらの願いを、やっときいてくださった。ありがたいことじゃ。この子は、神様がわしら夫婦に授けてくださったこどもにちがいない」
 こどものいない長者夫婦は、その子に「ふく」と名前をつけ、大切に育てました。ふくに乳を飲ませてくれたのは、清太の母でした。清太とふくは、ほんとうの兄弟のように仲良く育ちました。

 それから三年がすぎました。
 八ヶ岳のふもと、佐久の庄屋の家に、かわいい女の子が生まれました。長い間こどもが授からなかった吉衛門夫婦は、大喜び。きよとなづけられた女の子は、やさしいこどもに育ちました。

第一章 白駒は、誰の馬?

 八ヶ岳のふもと、佐久の里にも、さわやかな秋がやってきました。ふもとの山では、木々の紅葉が始まりました。

「ただいま」
 吉衛門が、山から帰ってきました。
「とうちゃん、おかえりなさい。きのこ、たくさんとれた?」
「とれたよ。きよ、いいものがあるから、庭へおいで」
 いいものって、なんだろう。きよは、わくわくしながら、庭へ行きました。
 すると、庭には、かわいい子馬が。雪のように白い馬でした。子馬は、つぶらなひとみで、きよをじっとみています。
「わぁー、かわいい馬。とうちゃん、この馬、どうしたの」
「足にけがをしていたので、つれてきた」
「どこからつれてきたの」
「湖のほとりからだよ」
「その湖は、どこにあるの」
「八ヶ岳のふもとの山の中にあった。とうちゃんの知らない湖だった。青く澄んだ美しい湖だったよ」
 吉衛門は、とってきたきのこを選り分けながら、子馬と会った時の様子を話してくれました。

 今朝。
 とうちゃんは、夜があけないうちに、八ヶ岳のふもとの山へ、きのこをとりに行った。山へ着いたのは、朝日がのぼるころだったかな。
 おととい、雨が降ったせいか、きのこがぞくぞくはえていた。とうちゃんはうれしくなって、夢中できのこをとった。気がつくと、全然知らない場所にいた。道に迷ってしまったのさ。
 とうちゃんは帰る道を探し、山の中を歩いた。でも、帰る道がみつからない。あせった。しかし、あせってみてもしかたがない。
 とうちゃんは、木の株に腰をかけ休んだ。そして、手伝いのばあやがにぎってくれたむすびを食べた。
 その後、帰る道を探し、再び山の中を歩いた。すると、「こっちですよー」という声が。女のひとのやさしい声だった。
 声のした方へ歩いて行くと、突然目の前に、大きな湖があらわれた。青く澄んだ美しい湖だった。湖のまわりには、楓が真っ赤に紅葉していた。その姿が湖にうつって、とてもきれいだったよ。
 湖のまわりを歩いていると、この馬がたおれていたんだ。馬は、足にけがをしていた。とうちゃんは、よもぎの葉をさがし、傷の手当てをしてやった。
 近くに家があるかなと探したが、一軒もない。湖は、こわいくらいに、しーんと静まりかえっていた。
「この馬は、誰の馬じゃ」
 とうちゃんは、大声で何度もきいた。でも、返事がない。けがをしている馬を、そのままおいてくるわけにはいかない。だから、つれてきたのさ。

「きよ。しばらく、この馬をあずかってあげよう」
「とうちゃん。この馬、誰の馬かしら」
「誰の馬だろうね。馬がたおれていた場所へ、わが家の住所をおいてきた。飼い主がいれば、訪ねてくるだろう」
「早く迎えにきてくれるといいね。とうちゃん、馬の名前は、どうするの」
 二人は、いろいろな名前をあげました。
 雪のように白いから、白雪。楓の紅葉がきれいだったから、楓。白駒・・・と。
「きよの好きな名前にしなさい」
「じゃあ、白駒」
「白駒か。いい名前だね」
 吉衛門が、うれしそうにいいました。
「あなたの名前は、白駒よ。今日から、わが家でくらすの。私は、きよ。とうちゃんは、吉衛門。よろしくね」
 すると、白駒が「ひひーん」となきました。かわいい声でした。
 これが、きよと白駒の出会いでした。この時、きよは七才。白駒は、生まれたばかりでした。

 その後。
 何日たっても、飼い主はあらわれませんでした。白駒は、他の馬といっしょに、庄屋の家で大切に育てられました。
 きよは、白駒に会いに、毎日馬小屋へ行きます。
「おじいさん。白駒は、元気?」
「元気ですよ、おじょうさま。白駒のけが、すっかりなおりましたよ」
「よかったね、白駒」
「おじょうさまは、白駒が好きなんだね」
「私、白駒が大好き」
「わしも、大好きじゃ。白駒は、やさしい目をしている。わしは、若い時から、この家で馬の世話をしてきた。でも、こんな利口な馬は初めてじゃ」
 おじいさんは、感心したようにいいました。

 白駒が一才になると、きよは白駒の背にのり、八ヶ岳のふもとの高原を走りまわりました。
 白駒は、足の速い、人の気持がよくわかる馬でした。とくに、きよのいうことは、なんでもわかるようでした。そんな白駒を、きよと吉衛門は、宝物のように大切にしています。

第二章 諏訪からきた少年

 それから二年がすぎました。
 まゆみの実が桃色になった秋のある日。
 庄屋の家へ、少年がやってきました。
「清太。これが、わしのひとり娘、きよじゃ。今、九才」
「きよです。よろしく」
「おらの名は、清太。十二才。諏訪からきました。おじょうさま、よろしくお願いします」
「清太には、白駒の世話をしてもらおうと思っている」
「清太さんが、白駒の世話をしてくれるのね。やさしそうな人でよかった。とうちゃんも私も、白駒が大好き。清太さん、ほかの馬もよろしくね」
 きよが、にっこり笑いながらいいました。やさしい笑顔でした。
「清太さん。もう白駒に会ったの」
「はい。今、会ってきました。白駒は、雪のように白い美しい馬ですね。それに、やさしい目をしている。あんなすてきな馬の世話ができるなんて、おれ幸せです」
 清太は、白駒が気にいったようでした。
 きよは、清太の顔をみた時、いつかどこかで会ったことがあるような、とてもなつかしい気がしました。しかし、どこで会ったのか思いだせません。
 一方、清太は「あっ、ふくちゃん」とさけびそうになりました。朝日長者の娘、ふくにそっくりだったからです。
「ふくちゃん。やっぱり生きていたんだね」
 清太は、心の中でそっとつぶやきました。
ふくは、清太の母の乳で、大きくなりました。でも、八才の時、一人で守屋山へ福寿草の花をとりにいき、こごえしんでしてしまったのです。兄弟のように育ったふくの死は、清太にとって忘れることのできない悲しい思い出でした。
「ふくちゃんにそっくりな少女が、おらの目の前にいる」
 清太は、夢をみているのではないかと思いました。
 年の近い二人は、すぐ仲良しになりました。きよは、白駒の様子をみに、毎日馬小屋へやってきます。そして、馬の世話をしている清太のそばで、楽しそうにおしゃべりをしていきました。

 清太が庄屋の家へきて十日後。
 月のきれいな夜でした。
「白駒」
「白駒」
 誰か、白駒をよんでいます。女のひとのやさしい声でした。
 すると、馬小屋の戸が、音もなくすぅーとあきました。そして、白駒が外へとびだしました。白駒の背には、美しい女のひとがのっています。
「あのひとは、誰だろう? 白駒、どこへ行くのー。待ってー」
 清太は、自分の声でとびおきました。
「夢か」
 白駒のことが心配になった清太は、馬小屋へ急ぎました。小屋をのぞいた清太は、心臓がとまるくらいびっくりしました。
 白駒がいません。あれは夢ではなく、ほんとうのことだったのでしょうか。

             つづく

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みほ ようこ
1943年、長野県生まれ。
茶道教授、華道教授の傍ら、創作活動を続ける。
著書に『諏訪の童話 風の神様からのおくりもの』『竜神になった三郎』『ふしぎな鈴』『ライオンめざめる』『竜の姿をみた少女』(鳥影社)がある。
ホームページ:www.geocities.jp/dowakan/

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