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書評
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『親からのDNAで人生は決まるのか?』小林 一久 著
文化連情報 自著を語る 平成23年(2011年)7月号

努力、訓練によって遺伝子を凌駕する

 今回、人生における様々な出来事や社会に起こる現象について、遺伝子と後天的要素がどのように関係しあってそれを出現させているかを、自らの体験も込めて、医学的、社会学的に考察してみた。
 東大附属中学の一卵性双生児を対象にしたデータでは、中学生、高校生の男女とも一卵性双生児の身長と体重は一致し、50メートル競走やボール投げ等の成績も一致しており、体格や運動能力は素質が関与する度合いが大きいことが分かっている。学科の成績をみると理科と社会に遺伝の影響が強く現れ、国語と数学の成績には遺伝の影響がほとんどみられなかったとのことで、体格や走る、投げるなどの能力は遺伝の影響を強く受けるが、学科では、理科と社会以外はあまりその影響はなく、学習能力に関しては遺伝よりも努力の影響の方が大きいことが実証されている。
 性格は多因子遺伝で複雑な形質が様々に組みこまれているので兄弟姉妹でも似ていないことが多く、さらにその後の生育環境で様々に変わってくる。親の性格をそのまま受け継ぐことはまれで、本人の意思と努力で様々に形成される。
 『利己的な遺伝子』の著書ドーキンス氏は、遺伝子は動植物の体を乗り移りながら何万年も生き続けてきて今後も生き続けるので、生命は永遠に続くと述べているが、公害等の環境の変化でその遺伝子の伝達が途切れたり不完全になるとその種が途絶えたり、変異したりする。遺伝子の本体DNAで細胞核内に存在し、肉眼では見えない極めて小さなものだが、蛋白を作る設計図を作りそれをコピーして細胞内のリボゾームに渡して蛋白や組織が作られている。ほとんど自動的に上記のシステムは作動しており、行動生物学者のドーキンス氏は、遺伝子は利己的で自分の利益のため、自分が生き残るためなら親兄弟、夫婦をも蹴落として生き続けようとするものだと述べている。
 遺伝子側からすれば、我々の肉体は遺伝子が分裂した後次々に乗り移る運び屋であり、遺伝子の設計図のままに動くロボットみたいなものかもしれない。しかし、我々人間には知恵があり、遺伝子をリードしていく才覚がある。遺伝子のロボットで終わるわけにはいかない。利益には目先の利益と長期的な利益があり、目先の利益は他人を蹴落とすことかもしれないが、長期的な利益は利他的、つまり他人のために生きるところにあり、それによって心から喜びとはかり知れない利益が得られるものである。定見なく目先の利益に突き進むことで自滅することがあることを人知は知っている。DNAで我々の人生が決まるのではない。努力、訓練によって遺伝子を凌駕することが出来るのだ。人に尽くす生き方によって遺伝子に長期的な利益をもたらし、健康で喜びに溢れた人生を築くことが出来るのである。
 本書は様々な例を挙げながらそれを実証しており、最高の生き方の処方箋で、生きる力が湧きあがってくる一書である。

『親からのDNAで人生は決まるのか?』小林 一久 著
北大医学部同窓会新聞 平成23年(2011年)6月23日

 人生は遺伝子によってほぼ決まると言う人もいるが、本書では遺伝子と生後の教育や努力の関わりについてあらゆる方面から検討し、如何に生きたら幸せになれるかを様々な例を挙げながら追求している。
 運動能力は素質と関係していることが多いが、学業成績では数学と国語では遺伝の影響はなく(社会と理科では関係がある)、仕事関係では、生まれつきの器用不器用はあっても、成果は殆ど努力で決まると述べている。
 出雲市で開業している天才的に大腸鏡が上手な医師を紹介しているが、その人は開業する前、同僚は車などを買っているのに、自分は給料やボーナスをはたいて200万円もする大腸鏡や数十万円するコロンモデルを買って仕事が終わった夜十時から十二時まで毎晩練習したとのことで、天才とか名手と言われる人にはそれなりの努力があるものだと述べている。
 本書の後半部分は、遺伝子と生き方について書いており、他人を自分と同様にとことん大切にして、人のために生きる時に全ての遺伝的要素を超越して最高の仕事ができて、最高に幸せになれると結んでいる。
 著者とはたまたま同じ職場で働いているが、卒業年度では大先輩である。しかし偉ぶるわけではなく、救急当直等も担当し、若手と全く同じ立場で、心から患者のことを思って仕事をしている。生涯人のために尽くす気概でつねに挑戦しており、その体験から書かれたもので、勇気と力を与えてくれる正に人生の羅針盤である。(西山 徹)

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