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『ベートーヴェンの「第九交響曲」〈国歌〉の政治史』エステバン・ブッフ 著 湯浅史 土屋良二 訳
毎日新聞 本と出会う─批評と紹介 平成17年(2005年)5月8日

国により異なる政治利用、悪用の歴史 評者・富山太佳夫

 桜の花の散る下で、静かに眼を閉じて、『第九』を聞くという趣味も十分にありうると思うのだが、これはどうもおかしいらしい。ベートヴェンのこの有名すぎる交響曲は、各種のバーゲンセールとならんで、今や歳末日本の風物と化しているからか。まあ、議論しても勝ち目はないだろう。せめて負け惜しみにひとつの事実を指摘しておくならば、この曲の初演は一八二四年五月七日のことであった―常識的には、歳末ではないようだ。(後略)

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『ヒトラー暗殺計画とスパイ戦争』ジョン・H・ウォラー 著 今泉菊雄 訳
朝日新聞 平成17年(2005年)3月20日

評者・小高賢(歌人)

 700ページ近い本書の主人公は、ドイツ国防軍諜報部長官W・カナリス。彼はドイツのスパイ活動を指揮しつつ、一方でヒトラーを何とか排除したいというレジスタンス組織の中心人物でもあった。
 ヒムラーなど、ナチス内部の権謀術数が渦巻くなかで、そんなことが果たして可能だったのか。ミュンヘン会談から「バルバロサ」作戦という独ソ戦、そしてドイツの敗北までの、ほぼ10年間の彼の具体的な活動が語られてゆく。

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『ウーファ物語―ある映画コンツェルンの歴史―』
クラウス・クライマイアー 著 平田達治 宮本春美 山本佳樹 原克 飯田道子 須藤直子 中川慎二 訳
朝日新聞 平成17年(2005年)3月13日

 ウーファはドイツ映画史上最大の映画会社である。20世紀初頭、フランスのパテやゴーモン社に続いて、しかしハリウッドのメジャー会社よりは早く、世界の映画の最先端に立った。本書は大判800ページ以上をかけて、ウーファの栄光と没落の歴史を克明に記す。そこには「別の手段による戦争の継続」としての文化史のありようが生々しく浮かびあがる。

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『大都会の夜』ヨアヒム・シュレーア 著 平田達治 近藤直美 我田広之 訳
日本経済新聞 平成16年(2004年)1月4日

 闇が支配していた夜の街に人々はどうやって踏み出していったか。都市の歴史を研究する著書が、パリ、ロンドン、ベルリンなど欧州の大都会の夜の変化を多彩な資料を引用して再現した。

『大都会の夜』ヨアヒム・シュレーア 著 平田達治 近藤直美 我田広之 訳
朝日新聞 平成16年(2004年)1月4日

評者・池上俊一

 気候風土、経済や社会の仕組み、衣食住などについては、近年の歴史学はかなり詳細に検討してきた。だが、一日の半分を占める「夜」の研究が、かくも鮮やかに歴史の闇を照らしだすとは、まさに虚を衝かれた思いである。ジャン・ヴェルドンの『夜の中世史』(原書房)と並び立つ、本格的な「夜の文化史」である。

『ヨーゼフ・ロート小説集2』ヨーゼフ・ロート 著 平田達治 佐藤康彦 訳
毎日新聞 平成11年(1999年)12月5日

評者・富山太住夫

 話としては、この東欧ユダヤ人の一家がアメリカに移住するまでを書いたもの――息子の一人は祖国で兵隊となり、もう一人はアメリカに密出国し、娘はコサック兵と関係をもち、もう一人の息子は障害児(のち指揮者となる)、そして妻。作りようによっては波瀾万丈の歴史ロマンともなりかねないものを、あるいはそこまでもってゆかなくても、十分すぎるほどに起伏に富んだ物語を、ロートはいかにも平凡なことのように語ってゆく。なにかしら、とてつもない悲劇を前にしながら、その悲劇に興奮することをたしなめられているような気がしてくる。

『ブッダの民』イサム高野 著
日本経済新聞 平成11年(1999年)8月22日

 黒沢明監督「影武者」のポスターなどを手掛けた広告写真家がチベットを旅した。1982年から8回にわたり二万キロメートルを踏破・そこで出会った人々は顔つきやしぐさ、道徳観などが驚くほど日本人と似た「ブッダの民」だった。
 小さな寺を守る兄弟僧や野宿しながら巡礼中の少女たち。微妙な表情をとらえた肖像写真風の作品は尊厳に満ちた顔でいっぱいだ。

『ヴェルサイユの異端公妃』宮本絢子 著
京都新聞 平成11年(1999年)8月8日

 ドイツの小選帝候の娘として生まれながら、政略結婚でたった一人言葉も通じぬフランスへ、太陽王ルイ十四世の弟オルレアン公のもとへ嫁いだリーゼロッテの生涯を描く。不美人ながら健康で明るい彼女は、愛するドイツを離れることだけでも泣きの涙。おまけに彼女が入った宮廷は享楽と不道徳に明け暮れ、貞潔な彼女に警戒心を抱くさながら適地の様相。が、生来心の素直な彼女はルイ十四世に好かれ、信仰心の厚い筋の通った生涯を送った。後にドイツ人が民族の誇りとした彼女の姿を、彼女が残した膨大な手紙などから克明に掘り起こした。

『ブッダの民』イサム高野 著
京都新聞 平成11年(1999年)7月25日

 超大作映画「天と地と」や黒沢作品「影武者」などの広告写真で知られる写真家は「1982年、初めてインド、ラダック(小チベット)を旅したとき、この地はいつか来たことがある。彼らとは以前会ったことがあると、感じた。子供の頃から心にあった原風景…それがチベットだった」という。そしてそれは、顔つき、しぐさ、くせ、道徳心などが随所と日本人に似ているからだと。
 彼らの背後に写る光景をみればどれも荒れ地と岩山である。荒涼たる地に粗衣と見えるものに身を包んで立つ彼らに、しかし卑しささはみじんもない。そして少年の人なつこい笑顔をみれば確かに懐かしさにとらわれるのである。

『東ドイツ文学小史』W・エメリヒ 著 津村正樹 訳
毎日新聞 平成11年(1999年)3月28日

評者・富山太住夫

 エメリヒの『東ドイツ文学小史』は本体が七百頁ほど―実にうれしい分量だ。東ドイツ40年の文学史をまとめるには適量だろうと思う。「私はこの本では東ドイツ文学という全体から生まれたすべての主だった観点や流れに対してオープンであろうと努めた」。エメリヒは、社会主義国東ドイツの公式の考え方に批判的な距離をとった作家たちに共感することを認めながら、それとともに、公平でかつ包括的であろうとする。その言葉にうそはない。

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