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『ポーランド旅行』アルフレート・デーブリーン 著 岸本雅之 訳
産経新聞 平成19年(2007年)11月11日

よみがえる80年前の新生国家 ドイツ文学者 池内紀

 ドイツの作家A・デーブリーンは1924年、2カ月にわたるポーランド旅行をした。ワルシャワをはじめとする主だった都市をめぐり、詳細なルポを書いた。
 1924年はレーニンが死んだ年である。イタリア総選挙でファシスト党が勝利した。ドイツでは前年、ミュンヘンでナチスが暴動を起こし、ヒトラーが逮捕された。
 18世紀のポーランド分割以来、ポーランド人は「亡国の民」といわれた。王国が生まれしも異民族支配のもとだった。第一次世界大戦終了の1918年、念願の独立をはたした。以来6年、ドイツの作家が新生ポーランド共和国を深い関心とともに旅してまわった。
 80年以上前の旅行記に意味があるのか? いまなお読むにたえるのか? 読むにたえるし、大いに意味がある。80年以上ものちの読者にあてて書かれたかのように意味深い。
 ワルシャワ、ワルシャワのユダヤ人街、ヴィルノ、ルブリン、レムベルク(ルヴフ)、クラカウ、ザコパネ、ウッジ、帰国の途についたのはダンツィヒ(グダンスク)。
 第二次世界大戦の始まりは、ナチス・ドイツによるダンツィヒ港外、ポーランド軍基地への攻撃だった。ヒトラーはワルシャワ壊滅を指示した。ヨーロッパ最大のユダヤ人街は、「ワルシャワ蜂起」の拠点ともなった。紀行に出てくる都市のいくつかで強制収容所が作られた。
 デーブリーンは両親がユダヤ人だった。ドイツにおける反ユダヤの気配を人一倍、敏感に感じていた。大戦終結後に強引に制度づけられた体制のもろさ、あやうさをよく知っていた。
 よく観察し、よく人を見た。一心に耳を傾けた。それが400頁近くに書きとめてある。ここには第二次世界大戦で消え失せたポーランドがある。消されたからこそ、なおのこといきいきとよみがえる。丁寧な訳に必要不可欠の注がほどこされ、過去が黙示録のように戻ってきた。

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