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『日本的エロティシズムの眺望』元田與一 著
朝日新聞 成実弘至のファッション新論 平成19年(2007年)1月19日

胸にエロス感じなかった日本人 成実弘至(京都造形芸術大学助教授)

 (前略)
 元田與一の『日本的エロティシズムの眺望』を読んで、この年来の疑問が少し解けた気がした。この本は古来日本人が女性のどういう姿態にエロスを感じたのか、美術、文学、芸能を渉猟し、中国や西洋の女性像と比較して論じたものだ。
 結論か言うと、やはり江戸時代には乳房に性的な価値はなかったらしい。それはただ授乳するための道具とみなされていた。日本には西洋のように女の裸体を鑑賞する伝統がなく、からだの部位に欲望を感じることもなかった。元田によると、「肉体をつつみ隠した衣裳と、その衣裳を身にまとうことによってはじめて生まれる」なまめかしさに「日本的エロティシズム」があるという。裸よりも着衣に欲情するということか。
 しかしせいようでは服を着た女をエロチックととらえなかったのかというと、そういうわけでもないような。かくのごとく、からだの問題は一筋縄ではいかないようだ。

『日本的エロティシズムの眺望』元田與一 著
朝日新聞 読書欄 平成18年(2006年)11月19日

評者・陣内秀信(法政大学教授)

 美の基準は民族によって違うし、時代によっても変化する。エロティシズムもしかり。今や西洋的価値観に洗脳された我々が失った日本独自のエロティシズムを著者は正面から論ずる。
 本書は問う。日本十は裸体に関心がなかったか、と。
 西洋美術では、神の時代の中世を除けば、美しき女性の裸体のオンパレード。理想の美が追究され、エロスの世界が表現された。一方、前近代の日本では、女の乳房は男にとって、エロティックでも美の対象でもなかったというから驚きだ。日本の男の乳房への性的な視点は、西洋へのあこがれの結果だという。だが、日本には、西洋のあからさまなそれと違う独自のエロティシズムが育まれたのだ。
 日本には古くから肉体拒否の思想や余韻・余白の美学の伝統があり、そこから女達の表情や容姿から滲み出るほのかなエロティシズムが発達した。それを最も巧みに描いたのが江戸時代の浮世絵。ふくらはぎや太ももの一部を露出させる鳥居清長の女の姿表現に日本的エロティシズムの神髄を見る著者は、次に近松門左衛門の『曽根崎心中』で、男の人形の手が女の人形の素足や肌を触るエロティシズムを艶やかに描く。日本人の心の深層に迫る刺激的な文化論だ。

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