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小説を書くための技術 -その① 視点-

小説を書くための技術 -その① 視点-
「これができれば絶対売れる小説を書ける!」という技術は残念ながらありません。
しかし「これができれば読みやすい小説を書ける!」という技術ならば存在します。

読みやすい小説を書く上で重要な技術の1つに「視点」と言うものがあります。
視点の定まっていない小説はとても読みにくく、読者が途中で投げてしまう可能性があるのです。

今回は小説における「視点」についてご紹介します。

密接な関係にある「人称」と「視点」


恐らくほとんどの人が、学生時代に国語の授業で「一人称小説」と「三人称小説」というものを聞いたことがあると思います。
この人称と視点は、切っても切れない関係にあるのです。

・一人称小説
小説内における地の文が主人公の語りで進むの小説です。
日本では明治期頃から書かれ始め、昨今でも特に「ライトノベル」や「ノベルス」などで多くの一人称小説が書かれています。

一人称小説の魅力はなんといっても、感情移入のしやすさです。
あたかも「自分が作中の主人公である」という感覚を読み手に与えます。
また、地の文が主人公の語り口なので、それを利用した文体や内容で読者を面白がらせることもできます。

さらに、一人称小説の中でも変り種として、夏目漱石の「我輩は猫である」が挙げられます。
この作品は終始、主人公である猫の視点で語られるのです。
似たような技法の作品は現代にもあり、2000年に刊行されたとある小説では、物語冒頭で死んだ少女の視点で最後まで語られるという作品があります。

・三人称小説
地の文が書き手の語りで進む小説で、大きく分けて「神の視点」と「一元視点」の2種類の視点を持った小説に分けられます
。19世紀ヨーロッパの小説のほとんどが「神の視点」による三人称小説で、日本の近代文学作品では「一元視点」のものが多く見受けられます。

この小説の魅力は語り手の持っている情報量です。
作者(作中における神)は物語内で起こることやその背景に至るまですべて知っていて、作中の随所で補足することができ、各キャラクターの心情から作中における事件の真相まで語ることができます。

また客観的な描写や、主人公達が知りえないこと、主人公がいない場面を描くことができるので推理小説などを書く際には非常に便利です。
とくに、始めに犯人が登場して犯行と隠蔽を行う「倒叙物(とうじょもの)」(ドラマで言えば「刑事コロンボ」など)などが書けるのが三人称の強みと言えます。

この他にもゲームブックなどで見られる「二人称小説」というものもあります。

視点とは読者の目の位置

小説を書くための技術 -その① 視点-

ゲーム、アニメ、ドラマや映画で考えると、視点というものの正体はとても分かりやすいものになります。

「どの方向から作品を見ているか」がそのまま小説における「視点」として置き換えることができるのです。

一人称小説は常に主人公の目を通して作品を見ることになります。
三人称一元視点ならば主人公の顔の側や、頭の後ろ、頭上といった、主人公寄りの位置で物語の進行を見ることになります。
最後の三人称神の視点は物語を俯瞰的や客観的な位置、各場面の上空や外から物語を見ます。

この視点、読者の目の位置は、一度定めたら極力動かさないように心がけましょう。
もちろんあえて各章ごとに視点を変える群像劇などの作品もあります。
しかし、まだ小説を書き始めて間もない頃は、視点を固定することで分かりやすい文章が書く訓練をしましょう。

自分に合った「視点」とジャンルに合った「視点」


自分の書きやすい視点を研究することは大切です。
また、上記に挙げた視点を組み合わせたり、さらには「二人称小説」という珍しい視点の小説に挑戦することも、皆さんの書く力を鍛える上で重要なことと言えます。

そしてジャンルごとに相応しい視点があることも覚えておきましょう。
「恋愛小説」ならば一人称の視点、また「推理小説」や「ハイ・ファンタジー」ならば三人称の視点が向いています。

これらを理解するために必要なのは、さまざまなジャンルの小説を読んで分析すること、そして書くことです。

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